Ready to Race!? 6

<10/23の続き>

深くえぐられたくぼみにすっぽりとフロントタイヤが収まる。2番クジで引き当てたグリッドは、真ん中よりも少し外寄り。第1コーナーをアウトバンクで回り、最初のテーブルトップへは外から入っていくつもりだ。大きく「5」と書かれたボードを寝かし、メインスタンドのある右手に向かい、スターターが走り出す。スターティングバーを支える小さな円形のプレートに視線を落として、ゆっくり数を数える――ごお、ろく、なな――言い終える瞬間、バネ仕掛けのプレートがはじけて、銀色に光るバーがフロントタイヤへと倒れた。

奥まで握ったスロットルグリップは一気にめくられ、2スト85ccのエンジンがが瞬時に吹け上がる。クラッチレバーを放すと、バーの手前のくぼみに押し当てられていたフロントフォークが一気に伸び上がり、一瞬でフロントタイヤをかち上げる。反射的に返した右の手首が今度は、勢いよくフロントタイヤを落とし、KXが加速を止めた。グリッドに並んだ、ほとんどすべてのライダーの背中を、ゴーグルのレンズに映しながら、ホームストレートを斜めに切って走る。第1コーナーの“内側”を小さく回り、斜面を軽く跳び上がると・・・深く刻まれたワダチにフロントタイヤがはねられた。

“出遅れ”を“あきらめ”に変えてしまわないように、最後のストレートに刻まれた深いワダチに揺れるマシンを、ステップから放した右脚ひとつで均衡させる。肝心の連続ジャンプと言えば、最初の2つはどうにかなるけど、その先が続かない。左ヒザをかばうように右手が緩み、右足がブレーキペダルに軽く触れると、KXはフラフラと勢いを失う。時々、深いくぼみに合わせられず、斜面にフロントタイヤを打ちつけては、4つ目辺りからでこぼこに不格好に跳ね上げられる。ただ、車速が乗っていないから大事にはならず、そのたびに右か左に大きく振られるマシンは、すぐに平衡を取り戻す――。とにかく前だけを見て走りつづけていたら、視界の隅に、赤いリヤフェンダーが小さく映りこんできた。

飾りのないCRF150RⅡは、#50をまとう。ryoと二人、寅さんよろしく「おいちゃん」と慕う大先輩のマシンが前を走る。泥に汚れたCRFよりも、ロイヤルエンフィールドかノートンか、はたまたBSAか、とにかくブリティッシュトラッドに身を包み、鉄馬にまたがる姿の方が思い浮かぶし、よほど様になる。馬革のロングブーツが似合いそうな、白髪の紳士。葛飾柴又ではなくて、山の手の香りがする大先輩と愛機CRF150RⅡ。まだ逆周りだった前回は、この組み合わせにしてやられている。少し丸めたその背中に視線をおいて、ゆっくりと右手を握り直した――。

<つづく>