曇りのち雨 3

<2/9の続き>

#51をつけたCRF150RⅡが、曇天に舞うチェッカーをくぐる。

すぐ前を走っていたマルセロには、あと一歩及ばず、メインスタンドの下で天を仰ぐ。そして、静かに視線を落とすと、スターティンググリッドに揃ったマシンをイン側からなめて、#41のKX85-Ⅱを探しはじめた。しかし、そこに、ワタシは居ない。首を傾げるようにして迫るryoに、大きく右手を振りかざす。ただ、そこは列の右端。第1コーナーからは一番遠く、およそ選ばれることのないグリッドだ。近くまで来てようやく気がつくと、すぐ脇で一瞬マシンを停めて、「疲れた」とだけ言ってコースを抜けていく。そこからコースサイドに回り、CRFにまたがったまま、ゆっくりとゴーグルを外した。

マーシャルが腕を上げて、大きく白旗を回し始めるのを合図に、グリッドがけたたましい音の塊になる。いつまでも慣れない雰囲気に呑まれそうなって、口の中が渇いてきた。「5」と記されたボードを下ろしてすぐ、コースサイドに向かって走り出すマーシャル。その瞬間を待って左足をステップに乗せて、つま先をシフトペダルに下にくぐらせ、右脚だけでマシンを支える。気分はシグナルグランプリ、昔の思い出を土の上、そのまま持ち込んでみる。スターターに焦らされた左の人差し指が、倒れるバーに一瞬遅れて反応する。2速に上げた瞬間、フロントタイヤが勢いよく空を仰いだ。

<つづく>