忘れないで

上野東京ラインとして日暮里駅に入ってくる、とりわけ帰宅時間の下り列車は、どうにもいただけない。乗降ドアが開くと同時に、ほぼ200%の乗車率へスーツ姿の男女が容赦なく雪崩れ込む。純真でまっさらなスーツがたじろいでいてもお構い無し、小さなドアも吸いこむのを止めない。

どうにか進み始めた車両の中ほどまでもぐり込み、両脚で踏ん張りを利かせても、車窓に映る月を愛でるゆとりはない。10分ほどして、少しだけやさしく北千住駅のホームに吐き出される。横一杯に広がり階段を上っていく波を、今度は泳ぐように勢いよく、シワのない背中がかいていく。