長い春

間欠にしたワイパーが定位置に留まっていると、見る間にフロントガラスが濡れてきて、前を走る軽自動車が闇にぼんやりとしてくる。あわてて左手でワイパーを押し上げて、さっき見ていたすっきりと黒い車影を取り戻す。それが面倒になって、今度はワイパーを休まず動かせば、少し固くなったゴムがガラスに引っ掛かりながら、音と醜い軌跡を残して一往復する。そしてまた、レバーを下ろして間欠に戻す。それを繰り返しているうちに、道の真ん中辺りが乾きはじめた。夜気を湿らせるだけの春の雨。ただ、季節をひと月巻き戻すやり方は、菜種梅雨と呼ぶには少し冷たすぎる。それでも進んだのではなくて戻ったのだから・・・許してやるべきか。思いの外、春は長い。