KISSやるには

湿気と熱気がごちゃごちゃに混ざって、ガラス窓に白い斑模様が浮かび出す。

帰宅ラッシュ。北千住を出る東武線の下り急行電車は、どれもこれも満員御礼だ。一度ヘンに嵌まったら最後、草加駅に着くまで我慢するしかない。ヘッドホンに音楽を流がし忘れていたら、それこそ一大事。荒い鼻息に、吐息が渇ききってしまったため息。そして、スマホの画面を叩く爪の音。西新井でホームに吐き出されるまで、聞きたくもない雑音に包まれていなくてはならない。今日は整列している間にしっかり装着、瞳を閉じれば、コボホールに舞うポール・スタンレーの姿がにじんでくる。

流れる曲はRock Bottom。午前6時、枕元でワタシの脳を覚醒させる旋律を、仕事終わりの瞬間にリピートする、この不思議。それでもポールとエースのアルペジオが、人いきれを一瞬でも忘れさせてくれる。次のストラトは「このアルペジオも悪くないね」、そう思ってすぐに思い直した。ポールかエース、そのどちらかにしかなれないんじゃ、この旋律は奏でられない。昨日Detroit Rock Cityのソロパートで思い知らされたはず・・・KISSやるには一人じゃ足らん、と。