ひと味違う

「春ってこんなものだったか」と、広がる雲を見上げていた昨日。陽が射すと言っていたはずなのに、一日が暮れるまで、ついに雲はとれなかった。渡る夕風だけが気持ち悪いくらいにあたたかくて、暮れゆく空の味気ない灰色と、すっかりずれていた。この雲が東に抜けていけば、「日本列島はしばらく高気圧に覆われるでしょう」と、夜のテレビニュースが明るく伝えていた。

そして、今日。夜明けが遮光カーテンの隙間をくぐり抜け、天井にヒカリの帯を這わせていた。風邪の抜けないカラダをようやく起こし、出窓にかかったカーテンを勢いよく開く。東の空に低く残った雲、その上にはまばゆい太陽。三日ぶりに色のあふれる朝がやってきた。抜けるようなヒカリの束にけだるさも溶け出して、代わりに生気が戻ってくるような、そんな気分の朝だ。

まだ痛む左ヒザをかばいながら、ゆっくりと階段を降り、ダイニングテーブルに着いて、ryoから届いたマグカップにコーヒーを注ぐ。たちこめる香ばしい匂いが、手にした軽めの感覚とうまくバランスしている。窓の外、黄色い花を眺めながら一口すすってみると、少し苦い、いつもと違う味がした。