日なたの匂い 5(完)

<5/18の続き>

第1コーナーへ、ホームストレートを斜めに切り取って走るCRF。そのサイドゼッケンめがけて、右手をひねり、左手の指が、生まれたてのチカラを後輪へと解き放つ。

思っていたよりもはるかに深く、乾いた砂がストレートを覆っていて、全力で加速していたはずなのに・・・フロントタイヤが砂にぶつかるようにして失速、あわててカラダを後ろに引いて、もう一度右手が止まるまでスロットルをひねったら、今度はコーナーの外側、バンクに向かってまっすぐ吹っ飛んでいく。フロントブレーキを握ったままマシンを寝かせると、砂にタイヤが埋もれて、あやうく転びそうになった。

ステップに立ち上がった両脚。左側には、まともにチカラが入っていないから、カラダが傾いてマシンもまっすぐ走らない。フープスは、特にダメだ。でたらめに飛び跳ねていると、短い間に何度もチカラが入り、ヒザが痛くてヘタレてしまう。これがもっと長かったら・・・師匠の背中を見ながら走るのは、できなくなる。

じゃあ、コーナーはどうかと言えば、山際で折り返すカーブは哀しいことに3つとも、全部“左巻き”。“尻”を振りながら走るには、どうしても内側の左脚を着きたくなる。さすがに、これはできない。そこにつながる第1コーナーと第3コーナー。大きさが違うけど、砂に埋もれた2つは、ともに“右巻き”。もともと苦手なものが砂のおかげでさらに難しくなる。右脚を着いて回れるけど、今度は外側にある左脚の踏ん張りがきかない。

右も左も、どちらのコーナーも、満足に回れていない気がする。どうしてもシートに腰を落としてしまうワタシから、少しずつ離れていく師匠。それでも左ヒザは、痛みを増すことなく、だんだんと屈伸に馴染んできた。けしてルーストを上げるような走りをしない師匠が、今日はあちこちで派手に巻き上げている。消えないうちにその砂塵の中に突っ込んでいき、前を追う。

いつ降るかわからない空の下、コースにさらさらと漂う砂を吸い込むと、乾いた日向の匂いがした。気分は完全ドライ、師匠の背中が、また少し近づいてきた。