慶応仲通り商店街にて

JRの田町駅を“山側”に降り、ペデストリアンデッキ第一京浜を渡って少し歩くと、細い通りの路地裏に入り込む。慶応大学の三田校舎まで、路地裏には間口の狭い飲食店が軒を連ねて、仲良くにぎわっている。周りに大小のビルが立ち並び、仕事人と学生とが入り混じって、昼時はどこの店も通りに待ち人があふれている。そのあふれ具合が、そのまま味に比例していそうな気がするから、ますます人の列は長くなって、12時半を回ってもいっこうに途絶える気配がない。

陽射しのない曇り空で、ちょっぴり涼しいビル風が抜ける路地裏、三田製麺所の「つけ麺」と迷いに迷ったけど、ぽっかりと席が空いた炭火焼の店に、あわてて転がり込んだ。通りに負けないぐらいに狭い店内は、カラダを反らせると背中合わせの客とぶつかるほど。それでも明るい柿色に囲まれて、品書きも貼られたポスターにも、高度成長期の日本が透けて見える。これでラジオから野球中継でも流れてきたら、ウルトラセブンメトロン星人が座卓を挟み、差し向かいで言葉を交わす“いにしえ”に変わってしまいそうだ。

飯と肉の量が微妙に不均衡な「牛カルビ定食」を何とか平らげて、膨れた腹をさすりながら、下手な日本人よりも気の利く中国人に、“お愛想”をお願いする。次に来るときは、昼の明るい雰囲気じゃなくて、夕暮れ時、壁と同じように柿色に染まった空の下からのれんをくぐって、カウンターで一杯ひっかけて帰りたい。できればとなりは、社会に疲れていない大学生がはしゃいでいると、いいかもしれない。かなりうるさいだろうけど、その方がよっぽど元気になれそうだから・・・。