アナタは何を・・・ 2

奥行きのない店の中には、KTMのマシンがずらり隙間なく並べられて、すっかり橙色に染まっている。蛍光灯の何倍も明るくなったような、そんな空間から、ヒカリが外の闇へとにじんでいく。閉店間際、雨雲、雷鳴。客らしい客は他に一組、それも雨が降り出して、SPYDERの引き取りを様子見している男性の二人組だけだ。3,000,000円を超える納車にはあいにくの空模様、なのに気にする風でもなく、薄く笑みを浮かべては、空と手に入れたばかりの愛車を交互に見やっている。その二人の脇をすり抜けて、さらに奥、狭い店構えの用品部へ顔を出す。用事があるのは、むしろこっち。入荷した部品を取りに来たのだから・・・。

「あらら。お父さん、クルマに戻れなくなっちゃたよー」と、手のひらほどのショートパーツのバーコードを読み込ませながら、kubo-chanが笑っている。奥まった店内にも届く雨音は、雷鳴に負けないくらいに激しく強く、アスファルトを打っている。大股で5、6歩もいけば届く軽トラに戻れないほどなら、相当な雨だ。会計を済ませて、もう一度店の入口に向かうと、それまで見えていた隣のパチンコ屋の電飾が、雨に煙っていた。透明なガラス窓にも雨が勢いよく当たり、そのまま地面に向かい、いびつな曲線を描いている。確かにこの降りじゃあ・・・たどり着く前にパンツまでびしょ濡れになってしまう。

新しい“相棒”には「とにかく金がかかる」とkunoさんと社長に言いくるめられながら、やることもなく、悪魔の経典「KTM POWERPARTS」に黙って目を落とす。魅力的で精巧な部品は、紙面の上でもイメージカラーに輝いていて、思わず手にしたくなるものばかり。“痛む”のが前提のモトクロッサーにも、これだけの商品をそろえてくるKTM。どうやら、わがままで鼻持ちならない“小娘”を彼女にしてしまったらしい。ふと視線を上げても世界は橙色につつまれていて、これでは余計なものまで注文してしまいそうだ。淑女気取りの小娘に財布代わりにされるのは・・・できればご遠慮いただきたい・・・。

<つづく>