彼岸 11(完)

「そんなの、瞬殺ですよ。瞬殺!」

いつも使っていた建材用のグラスウールを詰め込んだと聞いて、店のinaちゃんが高らかに笑い飛ばす。RMのときもKXのときも、それで問題になるどころか、すっかり調子がよくなっていたのに・・・4ストの排気には向かなかったらしい。その、あまりの高温に、焼けてしまったのか・・・。

言われるまま、純正のグラスウールセットと、85SXのショートパーツを一緒に注文して、宵闇が落ちそうになった駐車場に戻ってみる。ちょうど秋の彼岸。墓参りにも行かないワタシと、そのワタシのいい加減な整備を戒めに、九州博多から遠くこの関東までのこのこやってきたのだろう。

はたしてリベットをドリルで揉んで外したサイレンサーからは、手のひらが余るほど小さな、小さな黒いかけらが出てきた。それは、思っていたのとはまるで違う光景で、少しやせてしまったグラスウールにがっかりするはずが・・・不調のキャブレターがアタマからすっかり居なくなった。

「手抜きするなよな」。整備が得意じゃなかったmuraだけど、やはり自分のマシンは気になるのだろう・・・錆びたようなダミ声が、涼風に流れていった。