まだ見ぬ明日へ 2

<10/4の続き>

学生時代から付き合いのある伊豆半島にも飽きてきたとき、耳に届いた「軽井沢」や「小淵沢」の響きには、どこか大人の匂いがしてた。ツーリングに向かう先は、南から北西へと延びていき、埼玉から山梨、そして長野へと、少しずつ湾岸エリアから離れていった。ただ、上越と境を接する長野の県北だけは、途中に深い山岳地帯があって、高速道路や高規格の国道を避けてばかりいるクォーターのバイクには、距離よりもずっと奥に離れて存在していた。

国道さえ蛇行を始め、細かなジグザグを繰り返しながら迷走する県道は、時に方向感覚の自負と一緒に、太陽の時間とガソリンタンクの残量を失わせる。それもこの地を遠いものにしていた。それでも一つ一つ、知らない景色を瞳に映して走り着くのが、とにかくうれしかったことはよく覚えている。野沢温泉の菜の花も、津南町のひまわりも、安曇野の水車小屋も。そうした大切な景色の一つだった。ただひとつだけ、錦繍を水面に落とした静寂だけが、まだ見ぬ景色として、ずっと心の奥に残されていた。

<つづく>