イバモト本番車

「だってノーマルは、焼き付かないように濃くなってるんだから・・・立ち上がりでボコつくならニードルを薄く、そう、ハリのクリップを一段上に・・・いや、一番上にしてもいいかも」

全日本の最終戦に吸い取られて、8台しか集まらなかったコースの管理人が、めずらしくパドックをふらつき歩いてはセッティングの指南。すっかり“薄い”と思い込んでいた、コーナーの立ち上がりでもたつくような、開け始めのゴボツキは、実は濃いのだとsaitoさんは言う。ハリイチぐらいなら、インターバルの10分でも十分変えられる。前後のホースバンドを緩めてキャブレターを無理矢理斜めに倒し、てっぺんのボルト2本を外してジェットニードルを取り外す。小さなクリップを飛ばしてしまわないように指で押さえながら外すと、そのまま軽トラの荷台でハリの一番上にクリップを合わせてから、そこまでの流れを逆にたどり、キャブレターを元に戻す。

走行時間に間に合ったCRF150R-Ⅱが、豪快にホームストレートを加速して、乾いた褐色の第1コーナーのバンクを半分で切り返す。捻る右手に、4スト150ccが素直に回転数を上げていく。そして20分の間、かなり機嫌よく右手に反応してチェッカー。フラッグと一緒に探るようにOKサインを出すsaitoさんに、こちらも左の人差し指と親指で輪っかをつくってみせた。イバモト本番車の復活だ。