274.6kmの休日 6(完)

峠に近づいた途端、車線が一気に消えてなくなり、鬱蒼とした林の中は、濡れた細道になった。先行して逃げ切ったのはGROM、今日のところはワタシの勝ちだ。枯れ葉がはりついて滑りやすくなった路面を、そのままのオーダーでゆっくりと下っていく。突き当たった国道121号線を日光とは反対の左に折れて、ここからようやく昼飯の場所を探すことにした。

草木湖のレストハウスで停まるのをやめて、わたらせ渓谷鐵道神戸駅に向かう。くすんだ木造の駅舎がひなびた風情を醸すこの駅には、旧い特急の客車をレストランに改装した「列車のレストラン 清流」がある。ホームを渡り、行き交うこげ茶色の列車を眺めながら遅めの昼をすませると、まっすぐ帰らずにもう2本、今度は赤城の山間でワインディングを楽しんで・・・日が暮れるぎりぎりの時間まで、原付二種の二人旅は続いた。

「ごうどはね、神戸が正しい字なんだよ。この辺りの地名が神戸って言うの。JRの時代は駅名に同じ漢字が使えないって決まりがあってね、ほあら、神戸ってあるでしょ、だから神土と描いてごうど。それが今のわたらせ鐵道になって、ようやく元に戻った。ほらここ、書き直した痕があるでしょ」。

暮れなずむ利根川沿いを南下しながら、古びた駅舎の前で声をかけてきた、見知らぬ白髪の男性のことを思い出していた。ずっと忘れたままでいた出会いの感覚に、ブルッと肌が泡立つ。羽生でori-chanと別れ、走り慣れた県道をつないで帰り着くと、GROMのトリップメーターが274.6kmを刻んでいた。