泥とワダチと新しい出会い 5

<11/6の続き>

もっとずっと乾いていると思ったのに、とんでもない。とにかくまっすぐに走らせることの叶わない泥が、コースのすべてを覆っている。弱い加速にフロントタイヤは、その泥に突き刺さり、リヤタイヤが泥をはじいて空転しては、前に出るチカラがふっと消えてなくなる。名物の坂の上は、さらにひどいことになっていた。

2本目の上り坂を前に、ゆるいワダチが、ためらうように大きくうねる。そして、ただ一本だけ、まっすぐに力強いベストラインが坂の上まで、路面を深くえぐるようにして延びている。絡んだワダチを前にひるみ、坂の途中で推力を失ったSXに、たまらず左の人差し指を軽く引くと、途端にマシンが真横を向いて暴れ出す。

リヤタイヤが左右に振られるたびに、2スト85ccの小さなエンジンからは悲鳴が上がり、金属音が林の中にこだまする。先を望まなきゃいけないはずが、まったく視線は上がらず、ただ目の前に横たわる褐色を必死に見つめるだけ。そのせいで、坂を下るときもハンドルに上半身がかぶさっては、何度もフロントタイヤがいなくなりかけた。

<つづく>