泥とワダチと新しい出会い 6

カラダ中、とりわけ右の手首から肘にかけてがパンパンに固くなるほど、チカラを入れすぎて走っているから、すぐにブレーキレバーを引けなくなって、マシンも押さえつけられなくなる。そして、こうした日には、基礎的な技量の無さにむき出しになる。もう10年も続けているのに、少しも上手く走れない自分に腹が立ち、それなのにどうしようもできないことに、いらだちだけがつのる。

いくら走ってもなじめない、ワダチの残る3つ目の坂の下。一瞬、右手の甲を前にしてから捻ろうとするワタシの右横を、エンジンをギャンギャン鳴かせる訳でもなく、静かにスルスルと前に出ていくKX85-Ⅱ。追い越し際にちらっと見られたのが、「どうしたの、そんなところで」と言われているようで、フロントタイヤが行き先を定めないまま、半クラッチでその後を追う。

一番嫌いな左コーナーをやり過ごし、何とか手の届きそうな距離に彼女をおいて、バックストレートのウェーブに挑む。しなやかな後ろ姿は、師匠たちともざりままとも違う。多くのことを教えてくれて、今は姿を見せなくなった旧い先輩たちとも違っていた。似ているといえばkusabaさんの駆る150、同じ時期に全日本を走っていたい彼女は、でもマシンを激しく操るところがまったくない。

少しずつ離れるリヤフェンダーに、蛍光イエローが見え隠れしていた。