正しいウソのつき方 8

<2/24の続き>

もちろん、うそだ。聞かされている営業所長にも、それはわかっている。ただ、誰も何も理由を聞いてこない。異様に長い静けさの後、「いつ治るのか」と聞かれただけ。ひと月ぐらいかかりそうだと、医者に言われたことをそのまま伝えると、後ろで様子をうかがっていた課長に「うまくやってやれ」と言い残して、席を立ってしまった。

別に許されたわけではないけど、誰ひとり罪に問われることもなかった。初めて味わう不思議な感覚、そのやりとりに、汗が背中流れ落ちていたことは今も覚えている。そして、ひと月の間、先輩や同僚、後輩に代わる代わるテリトリーを回ってもらって、ワタシの仕事はつつがなかった。

むしろ、松葉杖を突いたワタシの姿に話が弾んで・・・みんな、いつもより営業成績が良かったぐらい。その月末は、営業所を上げての宴会になったように記憶している。ただ、それも今は昔・・・すぐに大人の流儀を真似するようになって、それからたくさんうそを並べてきた。もちろん正しいウソばかり。

<つづく>