風の春

かすかに湿った強い南風が、テレビから流れるピアノの旋律にかき消されていく。遮光の分厚いカーテンを開き出窓から外をのぞき込むと、弱い外灯の下でアスファルトが、黒く沈んでいた。窓を鳴らして風は流れ、白い蛍光灯の灯がゆらり揺られて、GROMを包む銀色のシートがバタバタとはためいている。春の風は、思うほどにやさしくはない。嵐のような西風に恐怖した、阿蘇外輪山の思い出が遠くによみがえる。

でも、夏にはお目にかかれないこの荒っぽさが、たまらない。