八八

まだ前職でもがいていた春の終わり、ちょうどkeiのお腹も目立つようになってきた頃だ。朝刊の小さな切抜きを財布へ仕舞いこんだまま、販売店をぐるぐる回る日々。社会人になって間もない、今となっては考えられないくらいに若くて幼い毎日に、その日だけが迫ってくる。そして二日前になってやっと、その日の夜と後輩の分と2枚のチケットを手に入れた。

少し汗ばむような生ぬるい夜、地下鉄の竹橋駅から地上に出て、夕闇に包まれた武道館へと走っていく。もちろんアリーナではなく、2階席から身を乗り出すようにして迎えたオープニングは、Love Gun。驚いているうちに、さっさと数曲が流れて、すっかり興奮しきった後輩の横顔に、ツアーのタイトル曲がぶつかり始まった。

今では、貴重なノーメイクでLA乗りの4人。そして、“カ”をバックにしたエリック・カーのドラミング。この夜から数ヵ月の後、愛息が産声を上げた。

KISS - Crazy, Crazy Nights [Crazy Nights tour 4/21/88]