坂の街の底に

雑踏を押しのけて太い通りの横断歩道。白線の帯を蹴って渡る自分が、ずっと昔、確かにここにあった。安物のスニーカーは、底に一枚、革の貼られた靴になり、ヒザの抜けてしまったデニムは、薄い化繊のスラックスに。無造作に尻のポケットを膨らませていた二つ折りの財布が、紺色のジャケットに収まる長財布に変わって、ワタシも倍以上、年を食った。それでもここを通るたび、混沌とした息吹にけしかけられて、空っぽの胸の内から勇気が湧いてくる。肩がぶつかり、にらみ合うのもご愛敬。人が蠢く街に今、宵闇の気配。