まだまだ、だ 5(完)

<10/1の続き>

昼を過ぎても雨は降り続き、山砂が吸い込みきれなくなった雨水は、マシンが走るたびに茶色の水になってにじみ出る。

それでも強引に、ゆるみきった泥を掻き散らして、4ストロークが無用に吠える。シフトペダルをすくい上げたはずがギヤは変わらず、すぐにエンジンは吹けきり、失速。第一コーナーをバンクの上で反転、斜面を駆け下り、インサイドを直線で切り取りながら、雨でゆがんだ408コーナーへと加速する。左の足首は、相変わらずシフトカムをうまく動かせないで、ギクシャク動く車体が、路面に出来たギャップを拾って大きくバウンドする。

20分を走りきることも、前を行くマシンに追いすがることもせず。ただ時間だけを、雨のコースで食い潰す。10年かけて積み上げてみても、あっけなく雨に流されていって・・・最後にはもう、ホームストレートの上でさえ全開にできなくなっていた。まだまだ、だな。見覚えのある車影に瞬間、気持ちが前を向きかけても、すぐに右手が動かなくなる。何も雨のせいだけじゃない。情けない走りに見切りをつけて、午後3時を前に早々とマシンを下りてしまった。

受付してくれた新顔のお姉さんが、一週間前のワタシを覚えていてくれたことに少しうれしくはなったけど・・・やっぱり何かが違う。かつて“ホーム”だったコースに、雨が降り続く。