季節外れの

昼下がり、風の吹かない交差点で、信号が変わるのを待っている。横断歩道の先、まだ葉を茂らせているケヤキの木陰に、すらりとパンツ姿の女性が一人、小さな男の子を後ろ手に引いてこちらを窺っている。辺りには誰もいない。ちょっとふしだらな思いを胸にもう一歩、車道に詰め寄ると、背中に重たげな排気音がゆっくり近づいてきた。赤信号に停まる車影を振り返ると、駅まで向かう路線バスが一台、横長のフロントグラスを光らせていた。視線の理由にうなずくように、青信号の横断歩道を小走りに駆けていく。男の子の二つの瞳に路線バスが映り込み、その小さな手のひらが、濃紺の制服を着た運転手に振られていた。

交差点から少し離れた駐車場、Bongoもヒカリの中に佇んでいる。キーを差し込み、運転席のドアを開けると熱気の塊りが、とろりと外に出てきた。エンジンをかける前に両席の窓をいっぱいまで下げてやる。そのまま走り出した車内に、乾いた空気が入れ替わるように吹き込んできても、陽射しに晒されていた車内は、シートやインパネ、シフトノブにまで熱がこもっていて、思わずエアコンのスイッチに手が延びる。一週間もすれば十一月、いつ冬将軍がやってきてもおかしくないこの時季にまた、季節外れの夏がやってきた。あといくつ季節外れを数えたら、いつもの年に戻るのだろう。そんな今年の尻尾も、あと二か月に迫った。