RS-Z

バックウインドウの右隅に“RS-Z”のエンブレム。このアルファベットの並びに、遠い記憶がよみがえる。

東京都下、多摩丘陵に延びる京王沿線に住んでいた頃のこと。世は空前と言われるバイクブームの中にあって、ちょうどヤマハの2気筒が、消えかかった2ストロークの灯を再びともし始める辺り。コミックの中、主人公がその兄弟車である350ccを駆り、国産最大排気量の750ccを追い詰めていた頃、ワタシも本気でバイクにまたがるようになった。

4ストロークのリッターバイクではなく、2ストローク500ccの4本マフラーから吐き出される白煙こそが最高峰と信じきっていた時代は、4ストロークの250ccがまだ珍しく、その空冷エンジンにセルスターターが付くことが“驚き”になる、そんな時代だった。RSにセル付きであることを示す“Z”を冠した「CB250RS-Z」は、まさにそんなマシンだった。

下の名前は忘れたけど、Hashimotoという目立たない男が乗っていたことは確かに覚えている。ツーリングに出るでもなく、ただブームに乗っかり、そのまま乗っていた風な彼とは、卒業してから会うこともなくなった。そして、ブームとともに公道から2ストロークが本当に消えてしまい、スクーターにビッグバイク、4ストローク全盛の新しい波がやってきた。

それでも2ストロークに恋い焦がれ、モトクロスから逃れられない今に、思わずBongoの加速が鈍る。“RS-Z”のエンブレムにココロを奪われていて、走り去る黒いハッチバックの車名にも気がつかなかった。ただ、同じHONDAの作。きっと“Z”に思い入れのある、熱いオトコが作り出したのだろう・・・そう、KAWASAKIとはちがう、あの頃の思いを込めて。