公道育ちゆえ

「公道とモトクロスじゃあ、違うでしょーよー」

言葉の端に茨城訛りを残しながら、ざりままが大きな声で笑う。たしかにまったく違うのだけれど、公道の峠で覚えた感覚は今もなお芯に宿ったまま、ワタシのコーナーリングを組み立て続けている。黄色や白色で区切られたアシンメトリーな空間には降っても照ってもいつの日も、スロットルを握る右手の横にちょうど半分、不可侵の領域がついて回る。だから、クローズドコースの右カーブにはいつも中途半端に余裕ができてしまって、思いきりインの頂点をかすめる勇気も生まれてこない。それはモトクロスを始めて10年過ぎた今になっても変わらない、ワタシのクセだ。

それでも最近、いつもなら嫌になる小回りに気持ちが乗ってきているのは、夏からMX408を離れたせいだろうか。公道のようにタイヤ任せ、エンジン任せにできる稲敷の山砂と違って、ここは赤土でタイヤもよく滑る。だから乱暴に右手を開けば、途端にマシンが横を向く。それでもマシンの駆動をその赤土に伝え、姿勢を崩すことなく加速する人がいるのだからと走った時間が、少しだけど報われている・・・そんな気もしてくる。ともあれセンターラインの呪縛から解放されつつある自分を確かめるように、昼休みを過ぎてまた、RM85Lのキックペダルを踏み下ろす。

オイル混じりの混合気を吸いこんだ85ccの2ストロークが、くぐもりながら真っ白な煙を吐き出した。