御射鹿池にて

池に浮かぶ朝霧を、陽光がやわらかに照らしている。ほとりに佇む木々は深い緑をその水面に落とし、風が林の輪郭を揺らして逃げる。ともに訪れるはずだった橙色の200ccは、今はもうなくて、湯みち街道と呼ばれる秘境の温泉へと続く道を、Bongoに揺られてやってきた。色付く時季を終え、冬の彩りをまとうまでの束の間が、山あいの空気と同じように固く冷やされていた。

できればそっとしまっておければよかったアプローチ。そこには簡単なバリケードと縄張りがめぐらされて、街道から下へは降りることができないでいる。「次は必ず単車で」、そうココロでつぶやき、まっさらなアスファルトの敷かれた駐車場を後にする。東山魁夷にも愛されたこの静けさが、来夏の夜明けにも変わらぬ姿であってほしいと、祈るようにしながら。