まっこと不自由なモノなり

夕べの風が勢いを増して、乾いた田畑をすくい上げる。砂塵がアスファルトを横切り、前を走るワゴン車が、大きく左によろめいた。その風に巻き上げられるように、陽射しは高くから眩しく降り注ぎ、空に遮る雲はひとつも浮かばない。透明な冬の色が揺れている。

市街地を抜けて、道が勾配とともに沼を渡りはじめると、いっそう強く吹き荒れる。覗けば小さな白波がいくつも水面をざわつかせ、左右に落ち着きをなくしたハンドルに思わずチカラが入る。そして、細めた視界の中、路肩にへばりついている人影が映り込んだ。

舞う砂埃から逃げるように身を屈めて、ゆっくりと男が独り、バイクを押し歩いている。吹けば倒れて、降れば濡れる。足を出さなきゃ止まっていられない。こんな不自由な乗り物の、どこに惚れてしまったか・・・大きく右に避けて追い抜きざま、短くホーンをひとつ鳴らしてみる。

シールド越しの瞳が、笑ったような気がした。