風神、現る

ようやく6年が過ぎようとしている大震災に遭い、大きく揺さぶられた古い工場は、あちらこちらの建て付けに、うっすら隙間ができてしまっている。数日来の強い北風が、その隙間をこじ開けようと突っ込んでは、叫ぶように烈しい声音を辺りに響かせる。

白壁が直方体を取り囲むだけの意匠は、小学生でさえ工作意欲のわかない簡単な造形。それらを渡り廊下が2本、3階の辺りでつないでいる。そして4階建ての最上階には、今では従業員の数をはるかに上回ってしまったビニールイスが、長いテーブルに整然と並べられている。

渡り廊下のつなぎ目に近く、風の通り道を塞いでいる傍のデスクで、パソコンのキーを叩き続ける。午後になって和らいだのか、思考を途切る音にだんだん気づかなくなってきた。それでも行き詰まり、両手を止めて瞳を閉じれば、やっぱり風の音は聞こえていた。

年の数だけ豆を撒かなくても、季節を分ける荒くれ声は、風に遠く霞んでしまいそうだ。