春まだ浅き ~前編~

少し時代遅れな、蛍光オレンジのフリースジャケットの上から、薄いGORE-TEXを羽織る。KUSHITANI製の赤いそれは、しばらくバイクに乗らなくなった知り合いから譲ってもらったもの。一緒に揃えたワタシのそれは、もう色がトンでしまっていて、引き替えに処分させてもらった。シンプルなスタンドカラーに、フルメッシュの裏地。それでも真夏は袖を通す気になれないほど、しっかりとカラダを包むライダースジャケットに、春の陽がやわらかくとまり、ほんのりカラダを温めていく。単気筒エンジンがアイドリングを続ける傍らで、アゴまでジッパーを引き上げて、ゆっくり視線をフルフェイスにくぐらせた。

<つづく>