RVFの風

4ストロークV型4気筒。398ccを抱いたトリコロールが、国道の反対車線を加速していく。スクリーンに身を屈め、遙か前方を見据えるAraiのスモークシールドに、陽射しが割れて落ちる。陽は高く上り、アスファルトに濃く小さな影を連れて、低く濁ったエグゾーストが走り去る。どこまでも伸びやかな並列4気筒のそれとはまるで違う、聞き慣れない不揃いに爆ぜる音はしかし、真夏の宵闇によく似合っていた。それも遠い記憶だ。

夏と言うには早すぎる空に、ヒカリが散り散りに眩く、雲を掃いていく。どこかでヒバリの声がしたと思ったら、次の曲のイントロだった。ウインドウを下げて、消えゆく音に耳を澄ませる。頬を触る風は、まだ冷たかった。