Another tomorrow 4(完)

インタークーラーターボのレスポンスに彼女の左足が一瞬遅れて、車体が飛び出した。コンソールに重ねていたカセットテープもバラバラになって、シートの下にこぼれ落ちる。あわてた彼女に手のひらを見せ、シートベルトを外してから、ひとつひとつ拾い上げた。そのなかに「Out Of This World」とマジックで手書きされたひとつには、彼女のために用意してきたEUROPEのアルバムが収めてある。

テープを入れ替えてすぐに、ストリングスの奏でるイントロで曲が始まった。スローなバラードがそのまま、濡れた高音ヴォイスに引き継がれると、「いい曲ね」と運転席から声が漏れた。

たとえ世界が壊れても、明日、僕の傍に居てくれるかい。

「夢追人の明日を支えておくれ」と、旋律に切々と語りかけるヴォーカル。僕の未来に君はたたずみ微笑んでくれているというのか。その日があるとすれば、いったいどんな明日なのか。

時は流れて、その明日にこうして今、立っている。Tomorrowがいつも明るい日を刻むばかりじゃない。ただ、けして暗い日でもない。夕べ、二十余年ぶりに乗せた助手席の彼女に、USBメモリから曲が流れた。すっかり年を重ねた彼女の口は閉ざされたまま、瞳にかすかな笑みをたたえただけだった。

君は、今も覚えているだろうか。もう25年も前の初めての夜のことを。