曲がるんじゃない 5(完)

6速を抱く長いストレートに独り酔いしれ、迫るターンをただ曲がっていただけ。でも、それは、やっぱり違ってた。

「もう少し立ったままで入れたらいいかな」

「座ったらもう、曲がらなくなっちゃうし」

“玉”の軽い2ストローク、それも85ccエンジンならなおさらのこと、しっかりフロントに荷重を預けてフロントフォークを縮めたままにしておかないと、曲がらないと言ってくれている。コーナーを曲がるんじゃなくて、マシンを曲げるのだ。そしてシートに腰を落としたら、あとは加速するだけ。それは、全部わかっている。でも、それは、なかなかうまくできない。

できるかどうかは別にして、ひさしぶりに教えてもらうことの多かった休日。ジェットニードルの径にも異常なほどの拘りを見せて、気温や湿度の基礎データを記録することも忘れない。レースにはピストンもタイヤも新品に近いものをおごり、あとは「ライダー次第」で臨んで、とことん自分を追い込む。目の当たりにした速さには、恐ろしい努力と覚悟がしっかり隠れていた。

まだ青が残る夕空に今度は、旧いMX408を駆けるSEの勇姿が浮かんでは消えていく。その後ろ姿を追う気持ちだけは・・・いつまでも失わずにいたい。