54×54の魅惑 7(完)

<1/7の続き>

左右のステップに立ち上がり、そのまま腰から上をハンドルバーへと折り曲げて、暗色に沈んだ直線を駆け抜ける。そして85ccマシンなら間違いなく拾っては弾かれる凸凹を、小さなピッチングモーションだけでやり過ごす。気を良くしてスタンディングのまま、黒く光ったバンクの縁をたどれば、19インチのリアタイヤが緩んだS字の黒土を真後ろへと蹴り上げる。

車体がまっすぐに立つまで待っていると、ステップアップの斜面がもう目の前にある。RMだと半クラッチで覚悟を決めないと、二つ目のコブをきれいに跳び越せない距離。でも、今日は違う。40ccのアドバンテージと長い足まわりは、右手をひねり直すだけでふわりと地面を離れ、見えなかった斜面へと静かに落ちていく。2ストローク125ccを感じる瞬間だ。

YAMAHAにも数多く乗ってきたけれど・・・強い印象が残っているのは、一台だけ。学生の頃に、友人から譲り受けたRZ250だけが今も私の一部を形作っている。多くのことを教えてもらった水冷2ストローク250ccは、ボア×ストロークが54mm×54mmのスクエアストロークのシリンダを二つ抱えていた。その54×54が作り出す123ccが2ストロークエンジンの理想形であり、ゆえに2気筒で250cc、4気筒でWGPマシンの500ccが出来上がる具合。そんなつまらない話を、今でもよく覚えている。

バックストレートを短く下り上れば、シングルジャンプの飛び出しが迫ってくる。MOTO-X981でもっとも高度の出るシングルジャンプを、排気量が増えたままにひときわ高く跳び上がる。ほんの少しだけ遠くに落ちていける高さからは、今まで見たことのない林の向こうが覗けるようだった。54×54の魅惑にひととき包まれて、最後の右ターンに呑まれていく。できれば黄色のオリジナルが欲しかったけれど・・・いいマシンに巡り会えた。