旅心

春に三日の晴れ間なし。その三日目は、空を鼠色で埋め尽くし、遠くに輝く太陽を、時折その薄れた隙間からのぞかせるだけだった。部屋から眺める街角は、さえないグレーをまとい、昨日までの温もりも、ガラス越しに消えてなくなっていた・・・・・・はずだった。

夜半に雨がやってくる。その前にと、ジャケットに腕を通して玄関の扉を開き外に出て、後悔した。そよぐ風は春の装いのまま、やさしく肌をすべっていく。どうやらこの一年で、季節の感覚もすっかり鈍くなってしまったらしい。

せせらぎを駆け上がり、九十九折りを抜けて、鬱蒼とした切り通しを越えて走る。雨に揺れても、この風なら、ヘルメットの中できっと笑っていられる。暖気漂う春の夕暮れに、雪解けの流れと芽吹く山並みが恋しくなった。旅心が温まる。