3月11日

2021年3月11日。メディアがこぞって騒がなくても、たぶん忘れることはない。あれから10年経っても、たとえ20年が過ぎたとしても・・・・・・。でも、被災地にあるような、ひどく鋭利な記憶は、僕には刻まれていない。

高層ビルの非常階段を下り、閉ざされたJRの駅舎をくぐり抜け、散らばったガラスのキラメキを踏みつけながら、ただ歩いた春の昼下がり。日が暮れて、それでも風は温くて、波打つ隅田川千住大橋で越えて、ひたすら北を向いて歩いた。

思い出すのは、そんな非日常で不思議な光景ばかり。3月にしては、どこか暖かい夜の中を歩き続けた記憶は、さて現実だったのか。肌に残るその感触を、今では確かめることもできない。