満足

「何もそこまで」と、曇天の夕暮れを西に向かって走る。そして、ちぎれたテーピングの痕を眺めながら、「少しやんちゃが過ぎたか」と独り言つ。

4ヶ月ぶりのYZ125はかなり手強くて、どうにも曲がってくれない。元IAのアドバイスを鵜呑みに走り出すと、しばらくした右の直角で、フロントブレーキに指が残ったまま、スロットルを開けきれずにスリップダウンする。砂に突き刺さったグリップがエンジンを吹き上がらせて、負荷の抜けたリアタイヤが狂おしく空転する。キルスイッチを押して、ハンドルに伸ばした腕から、鈍い痛みが響く。気つけば、左の親指がうまく動かない。

それから30分。仲間に分けてもらった湿布薬の上から、右手でだけテーピングテープを巻いて・・・・・・再び、YZに跨がる。キックペダルを踏み下ろして、クラッチレバーを引くと、やはり鈍痛。それでも、そのまま走り出す。グリップから指を放さず、クラッチを切らず、軽くスロットルを合わせれば、2ストローク125ccはさっきと少しも変わらず、素直に加速していく。変わっていくのは・・・・・・テープで矯正された親指の付け根だった。