鉄馬 2/2

<4/15の続き>

ジップアップしたゴアテックスジャケットに、フリース地のベストを忍ばせ、短いテンポでギヤを掻き上げる。右手に素直な味付けは、電気仕掛けとは言え、公道でのスロットルワークを十分に楽しませてくれる。肩に当たる陽射しに、風ももう、冷たくはない。最短距離でショッピングセンターに行くのを早々に諦めると、加速するマシンにブレーキを掛けて交差点を右折、その先で名も無き桜道にウインカーを落とした。

用水路沿いの小道は、対岸に桜の古木が立ち並び、季節になると薄桃色の弧線に彩られる。今日は、すっかり緑色となった枝を、その狭い水路の上に伸ばした並木道。その所々に、見れば八重の桜が、まだ花を残している。ぶらぶらと歩く初老の男性、田圃の畦に除草剤を巻くその背中に「すみません」と声を掛け、ゆっくりと右手を捻って走る。鉄馬の上で眺める、往きすぎし春。だから単車をやめられない。

(完)