舎弟

「世話かけやがって」と文句の一つも言ってやりたいが、何せ世の中、ウイルス騒ぎで面会もままならない。備品を届けに行っても、迎えてくれるのはマスクにフェイスシードの看護師ばかり。壁をひとつ隔てた部屋で寝ているはずなのに・・・・・・それは酷く分厚い、無機質なコンクリートの壁で、けしてやさしく振る舞わない。

今日も雲一つない快晴の朝。桜前線はすっかり海峡を越えていき、けやきの若い緑が陽射しに揺れている。季節は忙しなく、早足で巡っていく。せめてこの青が、窓辺の瞳に映っていれば・・・・・と、空を見上げて独りごつ。まったくいつまで寝ているつもりなんだか。「できの悪い弟を持つと......兄貴は心配なんだ」、思わずエースの台詞が口をつく。