マルテ珈琲焙煎所 2

飴色を深くした引き戸に近づいただけで、それとわかる匂いが、外までほんのり漂っている。蔵造りの建物に似合った少し重たいその木戸を引き、ゆっくりと敷居をまたいでいく。立ちこめるのは、燻されたような香ばしい香り。そして、目の前の狭い空間には、円筒型をした銀色の艶。そこだけが明るく、奇妙な存在感を押し出している。得も言われぬ、焙煎された褐色の芳香は、建物の隅々に滲み着いていて、訪れる者を静かに包み込む。こんなところで好きな書のページを送れたなら・・・・・・至福の時を想像するだけで、心が満足する。マルテ珈琲焙煎所。もっと早く、その藍地の暖簾をくぐればよかった。