遠く富山が恋しくなりました

朝から外に出てきた。駅に向かう途中、近くの中学校の正門には「卒業証書授与式」の看板が立てかけられていた。白い模造紙の上、少し右上がりの字は書道に覚えのある国語の先生の筆だろうか。農道の左端には親御さんたちの車が几帳面に並んでいる。その先の高校でも卒業式が行われるようだ。正門前の立て看板に向けてビデオカメラを回すお父さん、少し照れているけれど口元が緩んでいる。やはりうれしいのだろう、わが子の旅立ちが。

この季節の風物詩である卒業、旅立ちそして別れ。今日付けのダイヤ改正で、ワタシの記憶にある列車も「卒業」することになったようだ。寝台特急『北陸』である。

高校三年の一年間を、富山で過ごした。関東から出たことのない少年には、すべてが「新しい」ものばかりだったように思う。日本海を見るのも生まれて初めてなら、迫りくる山並みに圧倒されたのも初体験であった。

富山平野がわずかばかりであることは、その立山連峰が教えてくれた。そして、立山がはっきりと近づいて見える日は、決まって天気が良くなかったと記憶している。

はっきりと思い出せることは少ないが、とても懐かしい富山の町並み。その富山へ初めて連れてきてくれたのが『北陸』である。輪郭のある硬質な警笛とともに上野駅を発車する『北陸』、ホームにあふれるばかりに並ぶ鉄道ファンに見送られながらラストランを迎える様がニュース映像に流れる。ここでの涙は、やはりうれし涙ではなく惜別だろう。再び『北陸』で富山を訪れることはかなわないが、今年はツーリングに出てみたくなった。日本海に浮かぶ立山を眺めに。