“不思議な感覚”をまた味わいたくなった

閉め切ったカーテンの隙間が明るく光っている。二度寝がいけなかったのか、少し寝過ぎてしまったようだ。慌てて起きあがり、カーテンを左右に思いっきり開け放つ。向かいの家の薄茶色の外壁が、まぶしい陽射しを受けて、茶色の色がわからないほど薄い色に輝いていた。

全日本モトクロス関東大会の決勝、益子に行く“義理”さえなければ見物していたかもしれない・・・その義理も何となく果たすべき時機を逃してしまい・・・天気に恵まれた、“ただ”の日曜日になった。遅く起きた自由な朝、とりあえずシロとネロを河川敷まで連れ出すことに。途中いつもとは違う道順に気付いたのか、ネロがリードを引っ張りはじめた。遠くの土手が見えるのか見えないのか、足の運びがだんだんと速くなっているのがわかる。ネロにつられて、ワタシの歩幅も大きくなっているようだ。ようやく着いた緑の河川敷は・・・残念なことにグライダーの滑空路として占有されてしまっていた。ごめんねネロちゃん、今日はフリー走行できないよ。ウインチで大空に引っ張りあげられていく機体、ワイヤーが空気を引き裂いていく音だけが耳に届くだけ。上空へ音もなく斜めに上がっていくグライダー、ワイヤーが切り離されて、ゆったりと旋回を始めるその姿に、ある日のツーリングが思い出された。

250EXC-Rの前は、MONSTER900に乗っていた。人生最後のロードスポーツになってしまっているが・・・本州の“端”から“端”にワタシを連れていったキャブ仕様の名機である。ビッグツインに乾式クラッチの組み合わせに、何度もクラッチを焼いてしまった未熟なワタシ・・・ある日ツーリングの途中でとどめを刺してしまったことがあった。発進は自転車並み、80km/hまでしか出せなくなったM900を、だましだまし走らせる。折しも初夏の陽気でエンジンはヒート気味、傷んだクラッチにも追い打ちをかける状況が続いていた。裏榛名をやっとのことで登りつめて後は下る一方となった時、少しの間クラッチを休ませようとギヤをニュートラルにしてイグニッションOFF、惰性で下りはじめてみた。賑やかなエンジン音や吐き出される排気音は一切聞こえなくなり、タイヤが転がる音に規則的にこすれるディスクパッドの音が混じる。徐々に速度が上がっていくと、チェーンが上下に暴れている感触を車体が伝えてくる。静けさに加えて駆動力が働いていない、これまで味わったことのない独特の感覚が・・・ふとグライダーを思わせた。“操縦”はおろか、もちろん“乗ったこと”もないのだが、「グライダーってこんな感じなのかな」と喜々として下っていったのを今でもはっきりと覚えている・・・ツーリングに出たくなった。