Singin' in the Rain

社員出口に向かう通路から、慌てて傘を開く人の姿が見える。やられた!帰るまでは持ってくれるはずだったのに・・・すっかり雨模様だ。傘はもちろんカッパもない。とりあえず防水仕様のジャケットとクシタニのエクスプローラパンツで走り抜けるしかない。土砂降りというほどでもないし・・・何とかなるかな。

暖機もそこそこにXR230を走らせる。落ちてくる雨粒と前走車が巻き上げる粉のような水しぶき、そして、フロントタイヤが飛ばす水滴・・・農道を出る頃には、深い青色のジャケットが雨水を含んで黒ずんでいた。パンツの裾もしっとりと濡れている。思えば、ずいぶん走っていないような気がする。雨の街道を走るのは・・・いったいいつ振りのことだろう。

三日に一度は雨が降るお国柄、ツーリング三昧だった頃は、よく雨に振られた。横殴りの雨の中、台風と並走したこともある。会津西街道を南下している時、五十里湖の手前で遭遇した雷雨が最後かもしれない。Monster900が吐き出す爆音もかすんでしまう雷鳴に、激しく叩きつける大粒の雨・・・堪らず道端の廃屋にマシンを停めて雨宿りすることに。あの時もカッパを持たずにいたっけ。夏なのに一瞬で身体が冷え切ったことを、今でもよく覚えている。

そんな記憶をたどるでもなく、濡れた路面を歌いながら駆ける。雨の中だと“歌好き”になってしまうのはどうしてなのだろう?決して雨が好きなわけじゃないし、むしろ気持ちは沈みがち・・・だからなのかな?気晴らしに、せめて歌でも唄って楽しくいこうじゃないかという自己防衛。“雨に唄えば”・・・確かにヘルメットの中は乾いた雰囲気に包まれ、何やら楽しげな気分になる。気がつけば雨はほとんど止んでいた。ただ、明日も“唄わずにはいられない”天気のようだけど。