できれば9月になる前、最高気温30℃以上の日に・・・

上野から京浜東北線の1号車、それも運転席が見える真ん前に乗り込む。一緒に乗り込んだ家族が四人、乗降口とは反対側のドア周りに、丸く陣取っていた。上の子は小学3、4年生ぐらいだろうか、お父さんが着ているターコイズブルーとはどうにも釣り合わない、深紅のTシャツで床に腰を下ろしている。座る子供も子供だけど、それを見て何も言わない親も親だ、ため息の一つもつきたくなる。そんな兄のすぐ横で、小さな弟がしっかりと立っている姿に救われながら、生き物のようにくねる線路を眼で追いかける。サンダル履きの四人は、揃って白く光った東京駅のホームに降りていった。

ひと月振りの品川には、夏休みの華やかさが残っていた。京浜急行のホームに昇っていくと、小振りなスーツケースを転がす家族連れや原色のシャツやパンツに彩られた女の子たちで、意外と賑わっている。これから観光列車でも入ってくるかのような光景に、Yシャツの袖を肘までまくり上げて、扇子をせわしなく動かすサラリーマンが何だか場違いに映る。行き先は羽田空港や三浦海岸、しかも夏日和の毎日だから、行楽気分になるのも無理はない。平和島もちょっとした夏盛り、金髪にタンクトップの女の子が三人、賑やかに木製のベンチを占領していた。羽田空港行きをやり過ごすところを見ると、海にでも行くのだろう。底がピンクのビーチバックにタオルやゴーグル、浮き輪が詰め込まれている。「いいなー」・・・思わず短く漏らしてしまった。よし、今年は夏の名残があるうちに“夏休み”を取るぞー!ベンチではしゃぐ声が後ろから聞こえてしまっては、そう心に決めるしかなかった。ワタシの夏は・・・まだ終わらない。