『風の盆恋歌』・・・胡弓の音が聞こえてくるようだ

小学校の校庭に子供たちの姿が戻っていた。校舎の窓に朝日があたって、飛び回る白い背中を賑やかに見せている。朝から元気をもらって走る9月の空は、初秋にはまだ遠い、眩しい夏空だ。

9月・・・ちょうど今頃だったのだろう、初めて八尾の町に寄せてもらったのは。どういう訳で17歳のワタシを連れていったのか、いまさら親父殿に訊いても始まらない・・・よくわからないまま「風の盆が近いから」と招かれたのは、ごく普通の一軒家。踊りを見せるからと自宅へと招くことに驚いたことだけは、今でもよく覚えている。

ふすま一枚隔てた隣の部屋からは、浴衣に袖を通す衣擦れの音が静かに響いていた。浴衣姿に編み笠を目深に被るのが女性の踊り手らしい。ふすまを開けて姿を見せると、すうっと伸びやかに踊り始める。独特の手の運び、その指先が妙に艶かしかったと記憶している。ただ、胡弓が奏でる哀愁を帯びた音のだけが、はっきりと思い出すことができないでいた。

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風の盆恋歌』を読んで、記憶がはっきりとしなかった胡弓の音色が、耳の奥底に微かに流れるようになっていた。富山を離れてから何度か北陸にツーリングに出かけたが、立ち寄ったことは一度もなかった八尾。風の盆の時分に「再び八尾を訪れてみたい」と思っていたけれど・・・明日まででは、さすがに今年は無理のようだ。30年前の胡弓の音色を懐かしみながら、遠く越中八尾に思いを馳せる・・・「郡上踊り」もまだ見たことがないし、来年の夏は“踊り三昧の旅”もいいかもしれない。