温泉好きにはいい季節が巡ってきた

5時も過ぎれば、窓の外は真っ暗だ。窓ガラスに手を当てると、思わず引っ込めてしまうぐらいに冷たい。日曜日にはTシャツすら邪魔だと思っていたのに・・・それから二日、ジャケットの襟を立てて走っても、隙間から入り込む湿った冷気が身体を冷たくして・・・ようやく季節は移っていくようだ。XR230とともに風を受けていると、妙に温もりが恋しくなってしまう。肌の奥に記憶された温もり・・・先日訪れた四万温泉の感触を思い出して、身体が冷たさに敏感になっていった。

四万温泉へは三回目。二回目まではバイクと一緒、クルマで行くのは初めてだった。無味無臭の湯は、飲泉してもクセがなく、柔らかで肌触りが良い。温泉街には、『千と千尋の神隠し』のモデルになったという老舗旅館があったり、スマートボールの台を並べた遊技場が軒を連ねていたり・・・。今では店を畳んでしまっている土産屋、その外壁に残ったタイル地に、賑わう往時が偲ばれる。秘境というほど山奥じゃないけど、通り抜けられない国道の先にあるせいか、ひなびた風情だ。

温泉街から少し離れたところにある国民宿舎が、その日の宿になった。山の宿、それも国民宿舎では大したもてなしもできないだろうと夕食の席に着くと、流麗な行書体で書かれた「お品書き」と、懐石風の料理がテーブルに並べられていた。ひとつひとつに手が掛けられた品々は、“手間ぜいたく”とも言うべき出来栄え、その味も申し分のないものだった。

<秋の冷たさにどんどん記憶が蘇る・・・次回、もう少し“四万紀行”を>