返したくても返せない・・・6

根拠のない強気な態度は、癇に障る時もあったけど・・・一番muraらしい性癖だった。それが、あの日に一変した。「もう追いつけないな・・・IAとノービスぐらい差がついたみたいだ」。一年前、まだそんなにスロットルも開けられないワタシの拙いジャンプを見て、ボソッと呟いたmura。嫌味でなく、本心で言っていたのが悲しかった。すでに残りの人生を区切られていたmuraにとっては、追いつけるはずもない。悔いがあるとすれば・・・その思いに気づいてやれなかったことだ。

そうとも知らずに「そんなことないだろ?良くなったら走り込めばいいじゃん」。言葉のまま受け取って、何も考えずに答えた一言に、ただ笑っていたmura。それからひと月もしないうちに・・・ふっと消えてしまった。詫びる気持ちよりも、むしろ、その強靱な心に畏敬の念を抱くばかり。「・・・ったく、お前は甘いんだよ!」と毒づいた台詞が、風の向こうから聞こえてきそうだ。その声に背中を押されているかのように走り続けていたryoが、本日二回目のガス欠でパドックに戻ってきた。押し歩きでくたびれたわけじゃなく、走り切った感覚が心地良いのだろう・・・15分を残して、泥に汚れたプロテクターを外し始めていた。

「パパが走るなら走りますよー」と、含みのある言い方で迫るニセmanabu。Local-Xでしてやられたのが、どうにも忘れられないらしい。揃ってスターティンググリッドの前、#248のYZF250Fが最終コーナーを回って先行。イン側から並走する形で立ち上がるRM・・・10分間のバトル練習の始まりだ。「いい加減にしろよ」と言われそうなぐらい、右足には力が入らなくなっていた。このまま追いかけるのは・・・ちょっと辛い。早めに仕掛けて逃げ切るしかない。互いに苦手な坂下の左コーナー、立ち上がりで前に出て、そのまま裏のストレート、フープスとYZFの頭を抑える。アウト側のラインでYZFのフロントを掠めていって・・・やる気がなくなるのを待っていたのに・・・今日はなかなかタレてくれない。参った。

<次回に続く>