ここまで話が合うとは・・・歴女、侮りがたし~終

<ちょっと“間”が空いてしまったけど・・・12/21の続き>

温めのお湯が額からうなじへとゆっくり流れて、甘い香りもどこかに消えてしまった。平家物語の前ともなると、さすがに話の行き場もない。興味があるのは大化の改新でも平城遷都でもなく・・・古事記だ。およそ日常会話には登場してこない単語だけに、そこに何が書かれているのかは、知りたいところ。「古事記って読めるの?」、一体どんな文字で書かれているのか・・・想像もつかない。「現代語訳ですよ」と頭の上から笑い声が聞こえてくる。それはそうだ。ならば「どんな話?」と、次の興味に話を切り替える。

「うーん、日本版の聖書?」、しばらく考えてから、古事記を評する彼女。とりあえず“神”の話のようだ。読んでみたいとは思わなかったけど、内容を知っていれば「ちょっと自慢できるかもしれないな」・・・などと不埒なことを考えてしまう。時間をかけて洗い流された髪が洗い立てのタオルにくるまれて、「はい、終わりました」。その声に促され、ゆったりとした時間との別れを惜しむように、静かに目を開ける。極度の近視と乱視を持つワタシ、その裸眼に室内の明るさが飛び込んできて・・・目の前にいるはずの彼女の姿は、一瞬、コンクリート打ちっぱなしの天井に同化して、区別がつかなくなっていた。

席に戻ってからも、程よい感じに歴史談議が続いている。日本の生い立ちにまで遡った“時間旅行”も、最後は店長がハマっているという「信長の野望」に立ち戻って・・・戦国時代で締めだ。会計を済ませ、すっかり短くなった髪を左手で触りながら、モスバーガーへの階段を降りて外に出る。店内よりも眩しく照らされた歩道を歩き始めて、ふと忘れものをしていることに気がついた。数多の幕末志士、その誰が好きなのか・・・それを訊かずじまいだった。彼女のことだ、ワタシの知らない名前が出てくるかもしれない。そんなことを思いながら、角を右に曲がる。かく言うワタシは新撰組派・・・楽しく話は弾むけど、“思い”が交わることはなさそうだ。