akasaka Sacura?

去年の年末に受けた人間ドックで異常が見つかったらしく、結果は再検査。何も考えずに再検査日を「じゃあ、木曜日の午後でお願いします」と予約してしまった。これが失敗・・・“午後”を選んだのは大間違いだった。検査は“採血”、届けられた検査票には「当日は“禁飲食”でお越しください」と書いてあった。

冬至からひと月が過ぎて、今日は“大寒”。昼間の時間は確かに長くなってきたけど、暦の上では寒さの底だ。うっすらと霜が降りた朝、肌が露出している指先や首すじは、何か冷たいものに包み込まれているかのように熱が奪われていく。ヘッドホンのコードが首すじのちょうど真ん中辺り、柔らかいところに触れると、反射的に両肩が上がり「うっ」と小さく呻いてしまった。冷気がスラックスを素通りして、直接両脚に当たっている感じがする。そんな寒空の下・・・飲まず食わずの朝が始まった。

「腹が減って力が入らねぇ」・・・劇中でルフィーの吐く決まり文句が、今日は文字どおり“骨身”に染みる。内側から体温が上がらないからなのか、まるで風邪でも引いてしまったかのように、ぞくぞくとした寒気が全身を覆っている。力が入らないどころではない。12時少し前に事務所を出ると、明るい陽射しに一瞬騙されそうになる。すぐに冷気がまとわりつき、冷たく重たい身体をエスカレーターに乗せて・・・赤坂の山王下を目指す。

ただの採血なのに、人間ドックと同じようにロッカーの鍵を渡されて、更衣室に案内される。ようやく寒さとは無縁の世界、思わずロッカーの脇に積んである“検査着”に着替えてやりたくなるほどだ。とりあえず重たい鞄と上着にコートをロッカーにしまい込んで、一つ下の階へと向かう。椅子に腰かけると「お食事は」と看護師が訊いてくる。「取っていません」と短く答える。「朝も?」と、さらに食い下がってくるので、今度は「朝も、取ってません」と、少し力を込めて返事をする。納得してくれた看護師さんに左腕を預けると、消毒から針を抜かれるまで、1分ほどですべてが終わってしまった。「これでメシが食える」・・・止血しながらフラついた頭の中に、通りを出た先にある“さくら水産”の看板が浮かんできた。

検査結果が出るまでの間、赤坂には似つかわない“さくら水産”で遅い昼食を取ることにした。卵で一膳、おかずで一膳、海苔とフリカケで一膳・・・「いつもの倍は食ってやる!」と息巻いて、地下一階へと階段を降りていった。日暮里の店ではAとBの二つだけなのに、ここではCも用意されている。ランチメニューは3種類、そのCランチが、何と「黒カレー」・・・いつも気になっていた夜メニューの「黒カレー」だ。「卵かけご飯」の誘惑に少し迷ったが、結局Cの食券を購入して店の中へと入っていった。

昼の混雑は一段落して、空席だらけの店内。それなのに一方的に席へと通されるのは、ちょっと面白くなかった。ただ、食券と引き換えに給仕されるのは、日暮里にはないサービスだ。運ばれてきた「黒カレー」は、特に黒いこともなくて、ハヤシライスのような色合い。取り立てて“黒”を連想させる味でも無くて、コクがあると言えば「あるかなー」と言った程度。普通に「カレー」と言っていいんじゃない?と思ってしまう。それでも軽めにご飯だけはお替わりをいただいて、空っぽの胃袋を満足させてやる。食べ終えたままテーブルを離れるのも、日暮里では出来ない芸当。“akasaka Sacura”を堪能して、もう一度健診センターに向かって歩いていく。

気がつけば日陰を平気で歩いていた。ここに来るまでの寒さは、ご飯二杯の「黒カレー」が吹き飛ばしてくれたようだ。検査結果は良好、数値も正常値に戻っているという。「激しい運動で筋肉が壊れていたりすると数値が高くなることがありますねぇ」・・・すごいや、先生。大当たりだよ!とは言えず、声になったのは「そう言えば思い当たるふしがあります」とつまらない台詞。散水の餌食になってド派手に転倒、確か検査の日も股と肩に湿布を貼っていたっけ・・・それを知ってか知らずか、続けて先生曰く「できれば検査の前には・・・激しい運動は控えてください」。身体は嘘をつかない・・・とはよく言ったものだ。健診の前ぐらいは控えめに走ることにしよう!