恵みの雨ならぬ雪!?~第4話

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ヘラと爪とで削り取った後、真鍮製のブラシで、アルミの地肌を痛めないように慎重に磨いてやる。黒色はまだ残っているものの、指の腹で触った感覚がなめらかになるまで磨いてから、次の作業に移ることにした。取り付けるタイヤは、新品ではないけれど、ブロックの高さが倍以上もある。Show-Gにあやかれる逸品、もっと早く換えておけば良かった。両側のビードにたっぷりとビードクリームを塗り付けて、ホイールに押し当てる。半周ぐらいはタイヤレバーも使わずに嵌ってくれて、タイヤ交換に限っては・・・ピレリ以上のタイヤを知らない。

最後のビードを落とす瞬間の、ミシミシとデニム地を無理矢理引き裂くような嫌な感じも、もちろん中に収めたはずのチューブを噛む感触もなく、リヤタイヤの交換が無事に終了。オイルヒーターを点けていないせいで、すっかり身体が冷たくなっている。とりわけ足のつま先は、指で触るのも遠慮してしまうぐらいに冷えきっている。タバコをやめてから延々と整備し続けるようになったけど、さすがに今日は無理だ。ぬくぬくとしているryoの様子も気になるし、スプロケットを付け替える前に、コタツで暖まることに決めた。

固まってしまったかのように冷たくなった足先を、温風が循環しているコタツの中にすっと忍ばせる。隣でryoが、自作の型紙に合わせてバックグラウンドシートにハサミを入れている。慎重すぎておどおどした右手は、外周の線を小刻みに波打たせていた。「貼る前に、ボルトの穴は開けとけよ」とだけ忠告、体温の近くまで暖まった足先をコタツから引き出して、ガレージへと戻る。センタースタンドに、リヤホイールが外れたままのRMが乗っている。斜め後ろから眺める不安定な光景は、整備している実感が湧いてきて、ちょっと気分がいい。

手元が狂わないようにメガネレンチをしっかりナットにあてがって、スプロケットの固定を解いてやる。新車の時に付いていたスプロケットは、一度も走らずに外していたから・・・新品同様だ。歯先に着いたグリスも、新車の時のまま。チェーンとフロントスプロケットを替えないのは邪道な気もするが、明日走れるようにするには、これしか方法がない。梨地の鈍い光沢は磨耗していない証、タイヤとスプロケットが換わったリヤホイールを元に戻して、一応走れるようになったはずだった・・・。

<次回に続く>