ちょっぴり寂しい誕生日

たぶん今日、帰ってくるとケーキがあるんだろう。15本のローソクと一緒に。そんな思いを胸に家を出る。その主役は、薄いガラスに挟まった一枚の写真。地面にべたーっと腹ばいになって、アゴを突き出して、ドングリ眼で前を見ている。何枚もある中で、一番タロらしいと選んだ姿は、今も心の中にある。

タロの横にはミロとゴン太の遺影が並んでいる。ミロが「もう助からない」と寝込んでしまったとき、何かを感じたのか寄りつくことをしなかったタロ。そして、ミロがいなくなると、すっかり生気を失って・・・後を追いそうなぐらいに弱ってしまったタロ。シロがやってきたのは、ちょうどそんな時だった。

面白半分に連れてきた、ご近所で生まれたばかりの真っ白な子犬。恐る恐るタロの目の前に置いてみると・・・傷心の母性が刺激されたのか、お尻から鼻先までペロペロと舐め続けて一向に離れようとしない。結局そのまま我が家の一員となったシロ。そのシロと喧嘩をするようになったのは、この冬になってからだろうか・・・。

オスとメスだし、元々仲良くできなかったのかもしれないけど、タロとシロはほとんど喧嘩をしなかった。散歩も一緒、河川敷で放して遊ばせても、呼んでも帰ってこないだけで、心配することなんて少しもなかった。それが急に。しかもタロの方から一方的に、だ。変わったことと言えば・・・タロが老いてきたのが、ちょうどその頃だということぐらい。

きっと、弱ってきた自分が許せなかったんだよね。だから、シロに唸ってみせたんだよね。吠える声はかすれ気味で、上の歯と下の歯が当たっては、カチカチと音を立てている。何で吠えられているのかわからないシロの困った顔に向かって、吠える、吠える。ひとしきり吠えて満足すると、腹ばいになって眠るのが、いつしかタロの日課になっていた。

海を見せてあげられなかったこと、MX408に連れて行けなかったこと、最後の散歩でのんびり歩いてあげられなかったこと・・・ちょっぴり心残りはあるけど、ガラスフレームに収まったタロは、素知らぬ顔だ。一眼レフの描写力もあってか、触れてしまうぐらい傍にいるように思える。風呂に入れてあげられたこと、オシッコを漏らしても怒らなかったこと、そして、ryoの指にかみついても許してあげたこと・・・最後はかなり大目に見てあげられたんじゃないのかな?あれから、もう二週間・・・過ぎ去る日々は、どうも足早だ。