武者修行と言うには・・・あまりに情けなく~第六話

<2/24の続き>

「そう来なくっちゃ」。後ろから馴染みの音がくっついてくる。追い風に思うこともあれば、ときに気持ちを急かせて“乱れ”を誘う魔性の音。今日は、ちょうど、その中間ぐらいだ。視界に入ることなく、排気音だけを響かせるCRF150RⅡ。適当な緊張感を持ったまま走っていると、いきなり“スウィート”な距離をグンと詰めてきた。明らかに前に出ようかという気迫が込められた音に、絶妙だった均衡は破られた・・・。

簡単に刺されてはと、イン側の足で地面を蹴りつけながら、滑る車体をなだめ、踏ん張ってみる。しかし、音は遠ざかる気配もなく、迫力を増すばかり・・・その烈しさに負けて前を譲ると・・・滑り込んできたのは同じ“赤”でも150ではなくて250、フルサイズマシンだった。色付きゼッケンの一団をやり過ごして後ろを振り返ると・・・そこにiguchi師匠の150が見えていた。

その後も、周回を重ねていくと、4ストの野太い排気音が次々に襲いかかってくる。MX408のように後ろを確認しづらいこともあって、そのたびに「来たか」と身構えては、“背伸び”をして走ることに。抜かれる瞬間に「何だ、師匠じゃないのか」と一息ついてみるものの、後ろからせっつかれるのは楽じゃない。そんな繰り返しに集中力も途切れがちになってきて・・・その背中を見切ったのか、コース唯一のテーブルトップを跳び越えた先、インに深いワダチが刻まれた左コーナーで、仕掛けてきやがった。満を持して・・・か。

しばらく後ろに着いてわかったのだろう・・・RMがインのワダチに入らないことを。アウト側で大回りするRM、その立ち上がりの鼻先に“わん”と書かれたフォークカバーが割り込んできた。「来たか」。2、3周、同じところで同じ展開だったけど・・・今度ばかりは抑えきれなかった。攻守交代。逃げる赤いCRFを黄色のRMが追いかける番だ。4ストマシンが有利な路面状態・・・と言っても、所詮は同じ土の上。CRF150RⅡの後ろ姿を、iguchi師匠の背中を小さくしないように、時折右手を握りなおしてはスロットルを開けていく。

<これがあるから師匠との練習はやめられない・・・続きは次回>