冬の名残のにごり湯紀行~第一話

東武日光駅からは路線バスに乗り換える。と言っても、街中を走る、普通の路線バスじゃない。左右に2列ずつ、リクライニング式の座席が並んで、真ん中に補助席が設えられている。車体の“腹”にはスキーなどの長尺物から大きなキャリーバッグを飲み込む荷室まで用意されていて・・・どこから見ても“観光バス”の風体だ。いろは坂を越えて、中禅寺湖。戦場ヶ原を抜けて、目指す「日光湯元」は金精峠の入口、路線バスの終着点になっている。

窓の横に、冬枯れの山肌が覗いている。辺り一面が抑揚のない土色に覆われて、紅葉の名所も、すっかり形無しだ。その山を縫うように、“ヘアピン”の軌跡を描きながら、アスファルトが駆け上がっていく。小学生の時以来、二度目。バスで登る「いろは坂」は、景色がゆっくり流れ、大きな車体が右に左に傾げるたび、“遠心力”という力を思い知らされる。一方通行が終わる明智平までは、ずいぶんと時間が掛っていたはずなのに・・・眼下に“見慣れない” 細く優美な曲線がうねっているのを見ていたら、あっという間に着いてしまった。

<次回に続く>